7.慢性しゃっくりの薬物療法(現在判明してきたこと)
慢性しゃっくりの薬物療法(現在判明してきたこと)
※この章の情報は全て筆者個人の見解です。
慢性しゃっくりの患者さんでは、しゃっくりを止めても、治療後に自宅などで再発するという問題があります。そこで根本的にしゃっくりを止めたい、という最大の課題がありましたが、少し光明が見えてきましたので、参考までに記載しておきます。
結論から述べると、アセトアミノフェンが有効なようです。
具体的な処方(成人例)を参考に、用量用法を加減して下さい。
・PPI(強力な胃薬) (例:タケキャブ(10)1錠1×、ネキシウム 1カプセル1×、など)
・アセトアミノフェン(抗炎症薬) (例:カロナール(200)6錠3×)
ちなみに昼食後は患者の飲み忘れが多いので、朝夕寝る前の分3で投与することが多いです。
きっかけは上部内視鏡の名医の講演です。その先生によると「機能性胃腸障害は食道粘膜下の慢性炎症が原因らしい、という論文が出た」そうです。実は比較的若い女性の慢性しゃっくり患者では、胃カメラに異常がないことがほとんどなのです。そしてまさに機能性胃腸障害らしい訴えを伴っている例をいくつか経験していたのです。そこで筆者はその名医に「食道粘膜下の慢性炎症を抑えるには何が有効ですか?」とお尋ねしました。するとまだ消化器内科でも定見はないとのことでしたが、「一般的なロキソプロフェンでいいのでは?」という解答でした。要するにさすがの名医でも、機能性胃腸障害には手を焼いていて、一般的な胃薬が有効ではないようでした。しかし筆者には最大のヒントとなったのです。
一般的にロキソプロフェンは、抗炎症薬としては優秀ですが、同時に長期服用で胃潰瘍を引き起こすという副作用がありました。そこで筆者は、小児にもよく使用されるアセトアミノフェンを使ってみようと、単純に考えました。理由は慢性しゃっくりの患者さんには高齢の方が多く、ロキソプロフェンでは胃潰瘍を誘発する恐れがあったからです。
後日、理由を説明して、慢性しゃっくり患者さんに投与したところ、4~5日服用した後から、急にしゃっくりがあまりでなくなった、というレポートを頂きました。ところがその患者のかかりつけ医が「なぜ鎮痛薬(こどもの風邪薬)を長々と飲むのか、理由が全く分からない!」と怒って、アセトアミノフェンの処方を拒否。すると1か月後、しゃっくりが再発したとして再また外来に来られました。そこで筆者が再度アセトアミノフェンだけを追加処方したところ、またしゃっくりの頻度が下がったと連絡してきたのです。
これがきっかけとなり、他4~5人にも投与してみました。これらの方には胃薬とアセトアミノフェンを処方しましたが、1名を除き、同様な効果が現れました。1名の方については、どうしても止まらないということで薬物治療を中止しましたが、その方は、独自の方法でしゃっくりを自力で止められる方でした。その方には自分のやり方で対応するようにお願いしました。
ともあれ、複数の患者においてアセトアミノフェンが慢性しゃっくりにかなり有効である、というのは筆者にとって希望の光となりました。
薬理作用機序については、推論の推論ですので割愛しますが、事実として有効性はあるようでした。まだまだ研究段階ではありますが、現段階での有効例として報告しておきます。
なお、学術論文にして、何度か投稿しましたが、全てReject。何しろしゃっくり専門医が存在しないことも一因ですが、そもそも査読する偉い先生方(癌専門医)にしゃっくりへ興味を示して頂くことが超難関。ましてや彼らを学術的に納得させるだけのエネルギーなどもはや残っていません。
私、食道の第3狭窄部と呼ばれる「食道-胃接合部」付近の炎症により始まる事が最多。私は個人的に、「成人の止まらないしゃっくりは、生活習慣病だ」と考えています。食べ過ぎ、飲み過ぎ、夜の接待、あるいはお仕事柄夜遅い食事が当たり前、、、そんな現代生活を繰り返していると、胃も食道も疲れ果ててしまいます。加齢と共に筋肉や内臓も衰え、いつしかメタボになっていきます。成人、特に男性のしゃっくりはまさに仕事から引退した65~75歳頃に悩まされる方がほとんど。成人病が襲ってくるのもこの年代です。止まらないしゃっくりを機会に、人間ドックの受診や、せめて胃カメラの検査を受けて、生活習慣を見直してみるのもよい機会だと思います。お近くの病院・医院で結構ですので、是非一度ご相談下さい。
参考までに、当院の人間ドックはこちら