専門医療・TOPICS
脳血管内治療センターで扱う主な疾患
脳血管内治療センターでは脳神経外科、リハビリテーション科、救急科と連携し、迅速かつ最善の治療を提供できるよう努めております。治療においては脳動脈瘤や脳梗塞をはじめとした脳血管疾患に対して、開頭せずに血管内から治療を行う「脳血管内治療」を専門に行っていますので、お困りの際は当科をご受診下さい。
TOPICS
脳動脈瘤に対する脳血管内治療
脳動脈の一部が膨らみ、その血管壁が弱くなった状態を総称して『脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)』といいます。未破裂脳動脈瘤は成人の2~4%に認められる疾患で、未破裂脳動脈瘤があるからといって必ずしも破裂するわけではありません。ただし、破裂した場合はくも膜下出血をきたし、1/3が死亡、1/3が後遺症をもち、1/3の方しか発症前の状態を保つ事ができません。未破裂脳動脈瘤の自然経過については、日本脳神経外科学会主導で行われた前向き観察研究(UCAS Japan)において、全体での年間平均出血率は0.95%であること、出血のリスクは瘤の大きさ、場所、形状に影響されることが明らかになりました。
前置きが長くなりましたが、この未破裂脳動脈瘤の治療方法は手術で頭部を切開して行う「開頭クリッピング術」と、血管内から患部を治療する「脳血管内治療」があります。実際に治療を行う際は、患者さまの瘤の大きさや場所、形状から示される年間破裂率、治療による合併症リスクを十分に評価した上で外科的治療を行うか、画像検査でのフォローを行うかを決める事になります。
血管内治療の多くはマイクロカテーテルを用いたコイル塞栓術が行われます。コイルというのはプラチナ製の非常に細くて柔らかいもので、脳動脈瘤にコイルを留置することで脳動脈瘤内に血流が入り難くしてあえて血栓化を促して脳動脈瘤の破裂を予防します。
クモ膜下出血が起きた場合は、破裂した部分に血餅(けっぺい/血液が凝固したもの)が付くことで出血が止まる事が多いのですが、血餅がはがれると再出血する事になります。脳動脈瘤の再破裂では、30~50%の方が死亡するとされており、再破裂を予防するために「開頭クリッピング」または「コイル塞栓術」を行います。当科ではどちらの治療も可能であり、十分な検討を行った上で治療方針を決めています。
フローダイバーターステントを使った大型脳動脈瘤治療
これまで大型の脳動脈瘤は治療に難渋する事がしばしばありましたが、2015年4月より一定部位の10mm以上の未破裂脳動脈瘤に対しフローダイバーターステントを用いた塞栓術が薬事承認されました。フローダイバーターステント治療とは、密に編み込まれたステントを脳動脈瘤の親血管に留置し、脳動脈瘤への血流を減少させて血栓化を促すと同時に脳動脈瘤のネック部分での内膜形成を促して血管を修復し、脳動脈瘤の治療を行います。
クモ膜下出血後の破裂脳動脈瘤の手術は発症時の状態により入院期間が前後しますが、未破裂脳動脈瘤の場合は1週間程度の入院期間となります。
当院では2021年4月より、兵頭明夫先生の着任に伴いフローダイバーターステントを用いた脳動脈瘤治療を行えるようになりました。現在は最大瘤径5mm以上かつワイドネック型(ネック長4mm以上もしくはドーム/ネック比が2未満)の未破裂内頚動脈瘤(椎体部から床上部)および椎骨動脈瘤に対してフローダイバーターステントを活用した治療を行っており、瘤内留置型の脳動脈瘤治療用フローダイバーターステントの治療も可能です。
病院、クリニックからの御紹介はもちろん、患者様や御家族様からのご相談(受診)にも随時対応いたしますのでお気軽に御連絡下さい。
頸動脈狭窄
首(頸部)を通って脳に血液を送る頸動脈が、動脈硬化などで狭窄する病気を「頸動脈狭窄症」と言い、頸動脈狭窄は脳梗塞の原因となる病気です。
基本的には薬物療法を行いますが、脳梗塞を発症した症候性の頸動脈高度狭窄や、症状が無い場合でも非常に高度の頸動脈狭窄がみられる場合は外科治療である「頸動脈内膜剥離術」や、血管内治療である「頸動脈ステント留置術」が必要となります。当院では患者さまの状態に合わせて頸動脈内膜剥離術は脳神経外科、頸動脈ステント留置術は脳血管内治療センターが担当しています。
頸動脈狭窄の血管内治療では足の付け根(大腿動脈)にシースという管を留置し、そこからカテーテルを挿入して狭窄部の手前に誘導。狭窄部にワイヤーを通し、その先端に風船またはフィルターがついたものを留置して、狭窄部を広げたときに血管壁のプラークが脳内に飛散しないようにします。
次に狭窄部を風船と自己拡張型のステントで狭窄部を広げます。最後にプラークを専用のカテーテルで吸引して手技を終了します。これらの治療時間は30分~1時間程度です。
治療後は数時間の安静後に食事や歩行が可能となります。入院期間は概ね1週間程度です。
脳動静脈奇形
脳動静脈奇形は、脳の動脈と静脈が異常な血管の塊(ナイダスといいます)を介して直接吻合している血管の奇形で、脳出血やてんかんの原因となります。年間の出血率は2%程度ですが、脳出血やくも膜下出血を起こした場合は出血率が上昇します。
治療方法としては脳血管内治療で行う「塞栓術」、開頭して行う「脳動静脈奇形摘出術」、放射線治療の「ガンマナイフ」があり、病巣のサイズや形態によってこれら治療方法を組み合わせて行います。
脳血管内治療はマクロカテーテルを脳動静脈奇形の流入動脈に誘導し、液体塞栓物質を流して脳動静脈奇形を小さくしたり、流入血液量を減らしたりして開頭手術や放射線治療をより安全に行えるようにします。脳血管内治療のみで根治できる例もあります。
硬膜動静脈瘻
正常な血管は、太い動脈から細い動脈へ、さらに細い毛細血管を経て静脈へとつながって行きます。ところが、硬膜動静脈瘻という病気では硬膜の中の動脈と静脈が直接つながっている状態となり、その瘻孔を通して血液が異常静脈、正常の静脈へと流れます。
シャントの部位により物が二重に見えたり、結膜が充血したり、耳鳴りがしたりするなど様々な症状を呈します。特に脳内の静脈への動脈血の逆流があると脳出血や痙攣発作、認知機能低下などを引き起こす可能性があり危険な状態です。
この病気が起こるきっかけは外傷、静脈洞血栓症などが言われていますが、多くの例では原因ははっきりしません。日本では年間100万人当り約3人程度で発症する稀な病気です。
治療法として血管内治療、開頭術、放射線治療があります。危険性が低く、根治性の高い血管内治療が主に行われます。
当科では、この病気に対して血管内治療を行っております。従来はコイルや重合型液体塞栓物質であるn-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)を用いていましたが、シャント部の完全閉塞を得られないことがありました。
2018年9月からOnyxと呼ばれる非接着性の析出型塞栓物質が保険償還されたことにより、今まででは根治が難しかった症例に対し、より短い治療時間でより高い完全閉塞率を得られるようになっています。当科ではOnyxを用いた硬膜動静脈瘻の治療を積極的に行っており、豊富な治療経験を下に、安全に治療を行っております。血管内治療での入院期間は1週間程度です。本疾患が疑われる方(診断された方/他院への紹介を促された方)は、当科をご受診下さい。