泌尿器科Urology

前立腺がんについて

前立腺がんは男性にのみ備わる前立腺の外腺(前立腺の外側、尿道から離れた部分)に生じる悪性腫瘍で、過去30年で約10倍と、近年急速に増加傾向にあります。前立腺がんの約90%は60歳以上であり、中高齢者が気を付けるべき病気と言えます。
初期の前立腺がんは痛みや圧迫感などの自覚症状は殆どありません。ただし、進行するにつれ前立腺肥大症と同様に「尿の出が悪い」「トイレが近い」「我慢できない尿意」「尿失禁」「残尿感」などの症状がみられるため、前立腺肥大症を疑って受診された方から前立腺がんが発見される事もあります。つまり、検診等でPSAの異常を指摘されたり、排尿に関するトラブルに気付いたら、早めに泌尿器科を受診する事が早期発見・早期治療の近道となります。

前立腺がんの検査

当院で前立腺がんを疑う方に対して行う検査は次の通りです。
PSA検査は採血による検査で、生検は前立腺に針を刺して組織を採取し、がん細胞の有無を調べる検査です。

新しい生検『MRIフュージョン生検(MRI融合標的前立腺生検)』

前立腺がんを疑う患者さんに行う検査の一つ『前立腺生検』があります。この検査では、医師が事前のMRI検査で確認した病変の部位を頭の中でイメージしながら直腸から挿入したエコーで前立腺を観察し、前立腺に針を刺して組織を採取し、がんの有無を調べます。従来の生検では事前のMRI検査で病変の確認ができても、病変が小さい場合などではエコーで見えないこともあるため、広範囲にまんべんなく針を刺して組織を採取し、正確性を担保していました。

今回導入した新しい前立腺生検『MRIフュージョン生検(MRI融合標的前立腺生検)』では、事前に撮影したMRI検査画像と、生検時に行う3Dエコーの画像を融合することで、前立腺のどこに病変があるかをリアルタイムで確認しながら組織を採取する事が可能になりました。病変を狙い撃ちできるため、がんの検出率はこれまでよりも向上し、同時に前立腺がんの見落としや再検査リスクの軽減が期待できます。

泌尿器科では2023年11月よりMRIフュージョン生検(MRI融合標的前立腺生検)の運用を開始しており、前立腺がん治療で活用しております。

①システム全体。この画面にMRI画像と3Dエコー画像を融合した映像が映し出される。

②プローブ(3Dエコー)の直腸挿入イメージ。

③前立腺のどこに疑わしい部位があるかをリアルタイムで可視化し、患部を狙った針を刺す。

④実際のMRI画像と3Dエコー画像の融合イメージ。黄色が疑わしい部位になり、そこに向かって針を刺す。

 

MRIフュージョン生検 掲載記事のご紹介

徳洲会グループ発行の広報誌「徳洲新聞2024年(令和6年)01月29日 NO.1425 4面」に、当院泌尿器科の阿部泌尿器科部長のMRIフュージョン生検インタビュー記事が掲載されました。非常に分かり易い内容となっておりますので、是非ご一読ください

 

従来の前立腺生検は、MRI検査で同定したターゲットを頭の中に思い浮かべながら、経直腸超音波画像上で病変を探し針生検を行う。病変がはっきり同定できれば問題ないが、早期がんで病変が小さい場合は、MRI画像上では同定できても、超音波画像では見えないケースも多い。また、ターゲットが前立腺腹側にあるため、生検困難となるケースもある。このような場合、おおよその場所に狙いを付けて、生検の本数を多くすることで診断の正確さを担保するのが一般的だ。

一方、MRIフュージョン生検では、MRI画像上で同定したターゲットにマーキングし、そのデータを「トリニティ」のソフトウエアに取り込むことにより、超音波画像上に3Dでマッピングすることが可能。リアルタイムに描出される病変部位を観察しながら、確実にターゲットを狙って生検することができるため、がん病巣の検出率が向上し、局在診断も可能となる。

 

鎌ケ谷病院の阿部真樹・泌尿器科部長は「これまでは2次元の超音波画像下で前立腺生検を行っていました。MRI画像上で同定したターゲットの位置を思い浮かべながら針を刺すのですが、超音波画像では病変が見えず、どうしても予測して刺すしかないケースもありました。生検で、がんが診断できなかった場合、患者さんを定期的に診察し、半年後や1年後に再生検することになります」と説明する。

「MRIフュージョン生検は、リアルタイムにターゲットの位置を確認できるので、針刺しの的中率が上がり、病変部位に集中して採取することができます。検査の精度が上がることで、初期病変の見逃しが減ると同時に、不必要な再生検の回避にもつながり、前立腺生検による感染症や出血などの合併症も減らせます」と強調する。MRIフュージョン生検は、PSA(前立腺特異抗原)検査などスクリーニング検査で、がんが疑われたすべての患者さんに実施するわけではない。MRI検査で腫瘍が確認できない場合、病変部位へのマーキングができないため、MRIフュージョン生検は行わず、従来の超音波画像下での生検を行うケースもある。また、MRIフュージョン生検を行うには、通常の生検に比べ準備段階での工程が多く、機器操作の習熟も必要だ。検査時間はMRI画像の取り込みに10~15分、麻酔をして生検を行うのに10~15分かかり、通常の生検よりも長くかかる。

阿部部長は操作上のメリットについて、「一度、MRI画像を融合させれば、超音波検査でプローブ(患者さんの体に当てる部分)の角度を変えても、つねに画像が連動するのは助かっています。ゆくゆくはMRI画像を取り込む際に、AI(人工知能)で自動補正される機能も付与されると聞いていますので、期待しています」。

 

正確な早期がん診断と局在診断ができれば、多岐にわたる治療法のなかから、患者さん一人ひとりに合わせた治療が選択できる。同院では、前立腺がんに対し内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」による低侵襲手術を行っているが、阿部部長は「MRIフュージョン生検で、早期がんの検出率が上がるようになれば、手術件数が増える可能性もあります」と予測する。

また昨年4月に、同院の泌尿器科は常勤医が1人増え5人体制となり、診療機能を強化。ロボット支援手術では、新たに膀胱全摘出や腎臓部分切除も開始。「今後も最新の医療技術を積極的に取り入れ、患者さんにより良い医療を提供し、地域医療に貢献していきたいと思います」と意気込んでいる。

 

前立腺がんの治療

前立腺がんは「がんの病期」や転移リスク、患者さまの状態や希望によって「手術療法」「放射線療法」「ホルモン療法(内分泌療法)」「化学療法」などを適切に組み合わせて治療します。
鎌ケ谷総合病院 泌尿器科においては、ロボット支援手術システム「ダヴィンチ」を活用した傷や出血等の身体的負担の軽減が期待できる手術療法、放射線治療装置リニアックで体の外側から放射線エネルギーを照射してがん細胞を死滅させる放射線療法、精巣摘出や薬物治療を行うホルモン療法(内分泌療法)、抗がん剤による化学療法を組み合わせた前立腺がん治療を行っています。

手術支援ロボットダヴィンチによる前立腺がん治療